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東京高等裁判所 昭和52年(ネ)1766号・昭52年(ネ)1725号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

四責任原因

(一) 控訴人組合が組合員に飲料水を平等に供給することを目的とした権利能力なき社団であり、本件簡易水道滅菌槽及び本件格納庫の占有者であること、控訴人石田松治が控訴人組合の組合長、亡石田増治が同組合の水道技術管理者であること、本件事故当時本件格能庫の鉄扉の蝶番が破損していたが、右両名は鉄扉に施錠装置があるにもかかわらず施錠しなかつたこと、以上はいずれも当事者間に争いがない。そして、原審及び当審における控訴人石田松治の供述と弁論の全趣旨によると、控訴人組合は組合員数が四十数名の小規模な団体であり、日常の水道供給業務は石田松治、石田増治の両名がその衝に当つていたことが認定できる。

(二) <証拠>を総合すると、次の事実が認定でき、<る。>

本件簡易水道滅菌槽は、間口7.5メートル、奥行4.5メートルのコンクリート製箱型で、地上に据付けられ、その上部南西角には、北向きに間口1.32メートル、奥行1.20メートル、高さ1.37メートルの同様コンクリート製の本件格納庫が設けられ、その北側入口には、幅一メートル、縦1.16メートル、厚さ1.5ミリメートル、重さ32.5キログラムの鉄扉が設置され、鉄扉の正面左端のほぼ中央部附近には、直径1.5センチメートル、縦一四センチメートル、横八センチメートルの鉄製把手が取付けられていた。右施設は、国道二五三号線から浦川原村中学校方面に通じる幅約五メートルの登り坂の村道を北西に約五九メートルに進んだ左側道路端にあり、その反対側には浦川原村除雪センターの施設があつたが、附近には人家がなく、最も近い所で前記国道沿いに散在している程度であつた。本件滅菌槽の前記村道沿いの屋上と道路面の高低差は平均四〇センチメートル程度であつたため、幼児においても右道路から容易に滅菌槽の上に登ることができた。もつとも、本件事故発生当時、控訴人組合は、以上の施設への人の立入りを防止するため、道路沿いに直径五センチメートル、地上からの高さ約2.15メートルの鉄製パイプ六本を1.30ないし2.25メートルの間隔で立て、その間に地上から五〇センチメートル及び九〇センチメートルの高さの位置にそれぞれ太さ約三ミリメートルの鉄製の鎖を横に張りめぐらしてあつたが、鎖と鎖の間は上下四〇センチメートルの間隔があるほか、鉄製パイプが傾いて鎖の張りが緩んでおり、加えて、鎖は右パイプに引つ掛けただけで取り外しは自由であつたから、幼児でも施設の中へ立ち入ることは容易な状況にあつた。石田松治、石田増治の両名は、昭和四九年六月一七日、本件格納庫の鉄扉の右端二か所に取付けられた蝶番が腐食して折れているのを発見したが、松治において鉄工業を含む増治に対して修理するよう依頼しただけで、鉄扉に取付けられた施錠装置を利用することもなく、右修理するまでの間、鉄扉を本件格納庫の入口にやや斜めにして立てかけた状態のままで放置した。このため、同月二七日被控訴人(昭和四五年四月二日生)は、当時四才二か月の幼児であつたが、右鎖をくぐつて滅菌槽の上に登り、鉄扉の近くで遊んでいる際、これが北側に裏返しに倒れ、鉄扉の把手とコンクリート製の床との間に右手指を挾まれて負傷し、本件事故が発生した。

そして、右鉄扉が倒れた直接の契機としては、被害者が幼児であり他に目撃者もいないため判然とはしないが、前記認定の、鉄扉の大きさ、重量、倒れた状況、被控訴人の受傷の部位、本件事故は石田松治らが鉄扉を立てかけてから一〇日あまり経過していること等からすると、被控訴人が鉄扉の把手を手前に引つ張つたことによるもの、と推認するのが相当である。

(三) 以上認定の事実によると、土地の工作物である本件格納庫の鉄扉の保存に瑕疵があつたというべきであり、本件事故は右の瑕疵に基因することが明らかであるところ、控訴人組合は右格納庫の占有者であるから、民法七一七条一項本文による責任がある。

次に、控訴人石田松治及び亡石田増治が控訴人組合の日常の水道供給業務を担当していたことは前記認定のとおりであるから、両名は、普段から本件格納庫その他の水道施設が損傷していないかどうかを常に点検し、もし損傷等している場合は、直ちにこれを修繕する等して、一般の人に危険が及ばないよう注意する義務があるところ、両者は蝶番が破損して鉄扉が倒れ易い状態になつているのを発見したのであり、後述のとおり同所附近には人が立入ることが予想され、とくに子供が村道上から鉄扉の破損に気付いた場合、好奇心も手伝つて本件格納庫の内部を見ようとして近付くおそれも多分にあつたから、鉄扉を直ちに補修するか、補修できるまでの間は、施錠により鉄扉を固定できるのであれば施錠をするとか固定ができないのであれば鉄扉を他へ撤去するなどして、鉄扉が倒れて人身事故が発生する危険を未然に防止する注意義務があつたことはいうまでもない。しかるに両名は、何らこれらの防止策を構ずることなく、単に鉄扉を本件格納庫の入口にやや斜めにして立てかけただけで放置したのであるから、明らかに右注意義務に違反しており、この点に過失があるというべきである。したがつて、控訴人石田松治及び亡石田増治の権利義務を包括承継した控訴人石田勝は民法七〇九条による責任がある。

(四) 控訴人らは、本件格納庫は人家から離れており、かつ、鉄製の鎖を張りめぐらして危険防止の措置をとつていることを理由として、本件事故の発生につき控訴人らに何らの過失はない旨主張する。

しかしながら、本件格納庫は控訴人ら主張のように人家の密集した地区にはないものの、中学校への通学路の道端にあり、幼児を含む人の通行は少くなく、加えて本件滅菌槽の形状、大きさ等からみて、子供がその上に登つて遊ぶことも十分に考えられる状況の下にあり、又、控訴人組合の設けた鉄製の鎖は、その設置状況からして被控訴人が本件格納庫に立入るのを防止する施設としては物理的に殆んど効果はなく、かつ、その設置により本件格納庫への立入は禁止されていると理解する弁識能力が当時四才の被控訴人にあつたとは認められないから、右防護施設は不完全なものであつたといわざるを得ない。

更に、控訴人らは、被控訴人の両親である保坂和夫、同ミツイには、幼児である被控訴人の一人歩きを許して放置した点に監護を怠つた過失があるから、本件事故は被控訴人側の責に帰すべき自損行為である旨主張する。

<証拠>を総合すると、被控訴人の父は鉄工業、母は美容院をそれぞれ自宅で営んでいるところ、本件事故当日は、被控訴人は午后四時半頃戸外へ遊びに出て(もつとも両親は当時在宅していたが、右外出を確かめていない。)午后五時半頃本件負傷をして帰宅したところ、両親はその間における被控訴人の行動について格別注意を払つていたとは認められないこと、被控訴人宅と本件事故現場との距離は約二〇〇メートルあり、しかもその途中には車の往来が頻繁な前記国道が横断していることが認定でき、以上によれば、両親は未だ危険な状況に対する弁識能力に乏しい被控訴人の一人歩きを許して放置し、その監護を怠つた過失があるといわざるを得ず、右過失もまた本件事故の原因となつていることは否定できない。しかしながら、本件事故について控訴人石田松治らの過失も原因していることはすでに述べたとおりであるから、控訴人らの右主張は採用できない。

(五) 以上により、控訴人らは共同不法行為者として被控訴人に対し、連帯して本件事故により被控訴人の被つた損害を賠償する義務がある。

(舘忠彦 宮崎啓一 高林克己)

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